法務局に申請をして法務局の不動産の登記記録を変更する登記の申請は登記権利者と登記義務者の共同申請で行うのが原則です(不動産登記法60条)。少し乱暴な表現ですが登記権利者とは登記によって得をする人、登記義務者とは損をする人という理解で良いと思います。この両者がともに申請をすることで登記の申請の意思が合致していると判断をする目安です。しかし登記義務者が不明だったり、捜索が事実上不可能なケースが増加してきております。その原因としては50年以上もの長い時の経過により、登記の当事者が死亡していたり、会社の場合は消滅してしまっていて役員を見つけることができないといった事態になっているからです。そういった場合は相続人を探して登記義務者になってもらうなどの対応が考えられます。その場合は相続人全員の協力が必要です。また法人の役員が不明の場合は役員に代わる人を裁判所に選任してもらうため、裁判所に申立を行う方法が考えられます。しかし上記の方法は大変な時間と労力が必要です。相続人が何十人と増加しているケースも珍しくありません。そういった場合は事実上登記の手続きを進めることはほとんど不可能といってよいでしょう。そこでこの度の法改正では、不動産登記の原則である共同申請を緩和して遺贈による所有権移転登記、買戻権の抹消登記、抵当権の抹消登記を単独で可能とする法改正が行われました。
遺贈による所有権移転登記
まず遺贈ですがこちらは遺言執行者がいれば遺言執行者と共同申請で行えば相続人の関与は必要ありません。しかし自筆証書遺言で遺言を作成するケースでは遺言執行者まで指定する記載がないことが珍しくありません。その場合は相続人全員の印鑑証明書が必要となり、手続きのハードルが極端に上がってしまいます。せっかく遺言を残した意味が薄れてしまうのです。そこで相続人に対する遺贈であれば受遺者(不動産をもらう人)が単独で移転の登記ができるようになるよう改正がされる予定です。
買戻権の抹消登記
次に買戻権の抹消登記ですが、こちらは法律を専門的に勉強していない方にはなじみのない用語かもしれません。今回は買戻について簡略的に説明いたします。買戻権とは不動産を売却した売主が、売買代金を後日買主に支払うことで、再度売主名義にすることができる約束の事です。お金を売主に貸した人が売主から売買代金などの支払いがされなかった場合には、完全に所有権が買主に移転するといった、あたかも担保目的で利用されてきました。最近ではあまり利用されていないように思えます。この買戻権の登記ですが、買戻の期間が経過したら自動的に登記記録から抹消されるわけではありません。抹消登記によって得をする不動産の所有者と、買戻権利者が共同で抹消登記の申請をしなければなりません。しかし抹消登記をせず長く放置していた場合には当時の資料、書類、当事者を見つけるのが困難となってしまいます。そこで買戻の契約日から10年を経過していれば現在の不動産の所有者が単独で抹消登記ができるようになる予定です。買戻権が登記されたままでは不動産を売却することができないためこの改正は画期的なものといえます。
長期間放置された抵当権の抹消登記
最後に長期間放置された抵当権の抹消登記についてです。こちらはわれわれ司法書士泣かせのよくある事案です。長期間放置されることでやはり当時の資料、書類、当事者の特定が困難となり、抹消登記ができるようになるまで大きな手間と時間を要する事が多くあります。抵当権は法人が関与していることが多いのですが、その法人そのものが解散によって消滅しているケースでは裁判所の関与が必要となる事もあるのです。今回の改正では解散手続きを進めた清算人の所在が判明しない場合で、債務の弁済期および解散の日から30年経過していれば不動産の所有者が単独で抹消登記を申請することが認められるようです。この改正により解散した法人の抹消登記の負担が軽減されるかと思われます。
これまでご説明をさせていただきました法改正は2024年までに施行される見込みです。