法務局に自筆証書遺言を保管する遺言書保管制度が令和2年7月から運用が開始されました。運用が開始してから2年と経過していない新しい制度のため、実際の利用にあたっての利便性などの情報が多くはありません。ありがたいことに、このわずかな期間に当事務所に何件かご相談がありました。そこで当事務所の感想のようなものを述べさせていただけたらと思います。
法務局に預けられ保管された遺言は「遺言情報証明書」という真新しい造語のような名称となっております。遺言を作成した方が亡くなった後、相続人の方が取得するのは、遺言の原本ではなく画像データを用紙にプリントアウトしたものとなります。この遺言情報証明書の取得を司法書士などの専門家が代理で手続きすることは、今のところ認められておりません。相続人が法務局で直接ご取得していただく運用となっております。取得のための申請書の作成は司法書士に認められておりますので、ご相談いただけたら幸いです。
遺言情報証明書の取得に必要な書類については、請求者の身分証明書の他に、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍等と、相続人全員の戸籍、相続人全員の住民票など相続人の住所がわかる書類となっております。(相続人全員の住所の記載のある法定相続情報を提出すれば、上記の戸籍・住民票は提出が不要となります。)しかしこれだけの戸籍等に加え相続人全員の住民票を取得するのは相当な負担といえます。兄弟姉妹の相続であればその負担は何倍にもなる事でしょう。
なぜ亡くなった方の戸籍だけでなく、相続人全員の住所の情報が必要なのでしょうか。それは遺言情報証明書の取得の申請又は保管された遺言書の閲覧申請があった場合には、相続人全員に通知がされる運用となっているからです。相続人全員に通知をする事で、遺言情報証明書の内容に異議を唱える機会を他の相続人に与える趣旨かと思われます。しかし遺言によって財産を取得する相続人に大きな負担がかかってしまうのは酷な気もします。
この点は公正証書遺言であれば上記のように膨大な戸籍の収集の負担はありません。公正証書遺言は作成後にすぐに交付され、相続人が手元で保管をすることができます。遺言書の取得という負担がほぼない公正証書遺言は、この点においては遺言書保管制度より優れているかもしれません。