成年後見制度の利用件数は、日本では諸外国と比較して少ないと言われています。しかしそれでも、人口の高齢化のためか、利用件数が年々増加しています。当事務所にご相談くださるお客様の数も増加しているように感じます。
これまで後見のご相談を受けて、多くのお客様が聞いてくる質問があります。それは家族・親族でも後見人になれるのかというご質問です。結論から申しますと、家族・親族の方も後見人になれます。むしろ最高裁判所は、身近な親族の方が後見人になることを奨励しているくらいです。 もっとも、以下のような事情がある場合には、家庭裁判所が親族後見人が後見人になるより、第三者が選任された方が良いと判断されることがあります。
- 親族の同意が得られない
- 遺産分割協議の当事者となっている
- 財産が高額な場合
①の「親族の同意が得られない」場合
後見開始の申立書を家庭裁判所に提出する際に、添付書類として裁判所の様式の「親族の意見書」という書類も併せて提出します。親族の意見書に記載される親族とは、判断能力が低下した本人の相続人と考えてよいです。例えば、本人の配偶者や子などです。後見人になることについて、こういった生計を同一にしている、またはしていた身近な親族から同意が得られず、意見書が提出できないのは、多くのケースでは親族間で不仲となっていることが考えられます。後見業務は親族の協力がなければ円滑に業務を進めることが困難です。そのため、裁判所は第三者を後見人にすることを検討します。
②の「遺産分割協議の当事者となっている」場合
例えば父が亡くなり相続が発生していたとします。母の後見人に子供が就任したいと考えていた場合、父の相続人は配偶者の母と、母の後見人候補者の子です。そうすると、子が母の後見人になってから、後見人の子が判断能力が低下した母の代わりに子に有利な遺産分割協議を行う可能性があります。このように、利益が衝突(利益相反といいます)する関係で後見人に選任するのは好ましくないと裁判所が判断する可能性があります。
③の「財産が高額な場合」
判断能力が低下した本人が賃貸物件を多数所有していたり、高額な預金や株式を保有しているケースが考えられます。このようなケースでは、高額な財産を親族が管理するのに不向きであると判断され、後見制度支援信託(信託銀行に預金を預ける制度)を利用するか、後見監督人の選任を求められます。いずれも拒否した場合には、司法書士、弁護士などの第三者の後見人が選任される可能性が高いでしょう。
ただし、上記1~3に該当するケースでも、親族が後見人になりたいという強いご希望があるのであれば、申立てをする価値はあります。後見の申立ては人それぞれ事情が異なり、家庭裁判所が判断する要素も変わってくるからです。例えば、1の事例では何十年も疎遠の親族がいて同意書をもらえなかったりすることもあるでしょう。