前回の遺言の件では、財産をあげる相手によって、相続による財産の移転時期や効果が異なってくる点についてお話しました。今回は補足として、遺言の文言によって財産移転時期や効果が異なってくる点について見ていきましょう。
遺言のフレーズには財産を「相続させる」「遺贈する」という文言があります。意味として「財産をあげる」「贈与する」と同義です。しかし法的な効果としては「相続させる」と「遺贈する」では大きな違いがあるのです。
不動産の名義変更では遺言で財産をもらえる事になっている方に対し、「長男の○○にA土地を相続させる」と記載されていた場合は、長男が単独で名義変更の手続きを行うことができます。手続がスピーディで簡単に行えるのです。しかし一方で「長男にA地を遺贈する」と遺言に記載されていた場合は、他の相続人全員と共同で名義変更の手続きをしなければなりません。しかも印鑑証明書も法定相続人全員のものが必要となります。言い換えますと他の共同相続人全員の協力が必要となるのです。相続による名義変更の手続きは、単独で手続きが行えるのと手続きに他の相続人全員の協力が必要なのとでは、手続きの負担、必要書類、期間など天と地ほどの差があるのです。たとえば、登記原因証明情報、委任状などの書類に他の相続人に署名捺印をしてもらう必要があります。共同相続人が同じ市、または県に在住していればまだ良いのですが、遠方にお住まいの場合、郵送によるやり取りなど大きなタイムロスとなります。また相続人の中に不仲の方がいた場合は、手続きに協力を得られにくいと考えられます。その場合は遺産分割調停などで対応せざるを得なくなるケースもあり、時間も費用もかかってしまうことになります。
上記の問題点は不動産の手続きだけでなく、預貯金や株式の名義変更でも同様に当てはまります。せっかくの財産を特定の相続人に承継させたいという希望をもって遺言を残されるのなら、相続の手続きもスムーズに負担なく進めたいものです。生涯に一度の遺言ですから、最大限ご希望に沿った文書を残しましょう。